ベトナムに進出した日系企業にとって、現地のベトナム人社員との円滑なコミュニケーションや働き方の調和は、事業成功の重要な鍵を握っています。しかし、文化や価値観の違いから職場で摩擦が生じることも少なくありません。先日行った「働き方理解研修」を通じて、ベトナム人社員との間で見られる課題とその解決策を整理しました。
なぜベトナム人社員は「責任範囲外の仕事」に違和感を覚えるのか?
日本の職場文化では、「チーム全体の成功」が最優先されます。役割を超えた柔軟な協力が求められる場面が多く、全員が補完し合うことで目標達成を目指します。一方、ベトナムでは、個々の役割が明確に分担された職場文化が主流であり、責任範囲外の業務を依頼されると違和感を覚えることが多いです。
具体例:職場での摩擦
以前、外資系企業で働いていたベトナム人社員が日系企業に転職した際、次のような事例がありました。その社員は、電話応対や来訪者対応といった「自分の仕事外」と見なす業務を避けていました。それを見た日本人の同僚は「チームの一員としての姿勢が欠けている」と感じ、不満を抱きました。結果として、「なぜ自分が怒られるのか分からない」とその社員は困惑しました。
日本企業では、「助け合い」が職場文化の重要な要素であることをベトナム人社員に明確に伝える必要があります。
なぜベトナム人社員は日本人と「距離がある」と感じるのか?
日本では、「適切な距離感」を保つことが職場での公平性や効率性を守る上で重要視されています。一方、ベトナムでは、「人対人のつながり」を基盤とした文化が根付いており、親密な関係性が職場での成功に欠かせないと考えられています。この違いが、ベトナム人社員にとって「冷たい」「壁を感じる」といった誤解を生む原因になります。
解決のヒント
日本人とベトナム人の間にある距離感に対する認識の違いを解消するには、定期的な1on1ミーティングや非公式な交流の場を設けることが効果的です。これにより、適切な距離感を保ちながらも、信頼関係を築くきっかけを提供できます。
なぜベトナム人社員の意見が日本人に受け入れられにくいのか?
日本の職場では、意見を述べる際に「自責の視点」が重視されます。つまり、自己の役割や責任を認識したうえでの発言が求められます。一方、ベトナムでは、責任が個人に強く帰着する文化があり、自責の視点を持つことが心理的に大きな負担となる場合があります。
責任の認識の違い
日本では、たとえ問題が発生しても、最終的には組織全体で責任を共有し、解決に向けた取り組みが進められます。しかし、ベトナムでは、責任が個人に集中する傾向が強いため、「自責」を求められると、意見を述べること自体を避ける傾向が見られます。この違いを理解し、意見を述べやすい環境を整えることが求められます。
ベトナム人社員と日本人社員の「責任」と「組織」の見方の違い
ベトナム人社員
「人対人」の関係性を基盤とし、責任が個人に帰着する
職場でも個々の関係性が重視され、責任もその人個人に帰着します。そのため、過剰な責任を避ける傾向があります。
日本人社員
「組織対人」の関係性を基盤とし、責任がチームや組織に帰着する
日本の職場では、組織全体での成果を重視し、責任も最終的にはチームや組織全体に帰着します。このため、個々の責任が共有される姿勢が一般的です。
人事担当者ができること:文化的な橋渡しの重要性
ベトナム人社員が日系企業の職場文化にスムーズに適応できるよう、以下のポイントを意識することが重要です:
- 日本の「助け合い文化」や「責任の共有」の考え方を具体例で説明する
- 定期的なミーティングや1on1を設け、意見を自由に述べられる環境を整える
- 文化的な違いを踏まえた柔軟な人事制度や評価方法を導入する
ベトナム人社員の文化的背景を尊重しながら、職場での摩擦を減らし、信頼関係を構築することが、長期的な成功につながると考えられます。